「変な探偵」

墨
長年探偵をやっているといろんな人に出会う。

それは依頼人であったり同僚だったりするのだが、今日は僕の元同僚の変わり者K君を紹介しよう。

変わり者探偵K

彼は生きていれば僕と同い年。東京のとある探偵事務所に勤め、数年で独立した。

僕はてっきり東京で開業するものとばかり思っていたのだが、出身地の長野県に帰りそこで事務所を出した。

当時はまだ探偵のコマーシャルは旧日本電信電話公社(今のNTT)で発行していた「職業別電話帳」のみだった。

彼が退社する前年、僕も神田駅前の古いビルの小さな部屋を借りて独立していたのだが、なんとなく気の合った彼とは毎日のように電話で話していた。

合言葉は「どう忙しい?いや~暇だよ」だった。

例え忙しくてもそんなことを言うと可哀想な気がするし、多分向こうもそう思っていたに違いない。

当時は、電話帳の広告ページに名刺大の広告を出せば数人の調査員を抱えてやっていけたいい時代だった。僕の事務所もぼつぼつと依頼が入るようになり、生活も少し楽になったが、長野の彼もそれなりに食えるようになっていた。

そうこうするうちに僕はゴルフを覚え夢中になった。

時を同じくして彼もやるようになったらしくしきりと誘われた。長野だと日帰りはキツイ。

東京から仲間を何人か誘って泊りがけで行くようになり、誘われるまま、コースを買う羽目になってしまった。

そのゴルフ場はホテルも併設しており夜は麻雀も出来る。勿論彼も目の無い方でゴルフ仲間は皆麻雀も好きだった。

また、東京の仲間たちでコンペをやることも多く彼も誘うと二つ返事で参加したものだ。

Kとともに浮気調査

そんな或る日、新しく入った浮気調査で、長野県に出張するというマルヒ(調査対象者)を尾行することになり、彼にも加わってもらうことになった。

田舎道を僕と二人でマルヒを追う。

携帯の無いころのことで僕たちはトランシーバーで連絡し合いながら徒歩尾行を続けた。

ふと後ろを見ると彼の姿が見えない。

どうしたのかな?おしっこでもしたくなったのか。

そう思っていたのだが何時まで経っても姿を見せず、夜になってマルヒは宿に入り調査は終了した。

暫く経って彼が僕の泊まるホテルにやってきたので(どうしたんだよ)と聞いてみた。

すると彼はこんな言い訳をして僕を驚かせた。

「いやあ、まいったよ逆に尾行されちゃって今まで畑に隠れてたんだ」

え~。と思ってさらに聞いてみると、実は前々から自分のことをつけまわしている奴がいて今日もそいつが追っかけてきちゃってさあ。と言う。

僕は、変だな~と思ったがその場はそれで済んだ。

ベッドで横になって考えてみる。そういえばあいつゴルフ場で風呂に入らない。真夏でもだ。

会合でホテルに泊まっても「ちょっと風邪気味なんで」なんて言い訳をして決して皆と浴場に行かない。

ここに至って思い当った。

そうか、Kは「墨が入ってる」んだ。

Kの素性

東京に戻って我々が修行した探偵事務所をたずね話のついでといった感じで所長にかまをかけてみた。

すると、全幅の信頼を得ている僕に所長はいとも簡単に「あいつは飯山温泉でポン引きしてたんだよ。確かシャブで捕まったこともあるんじゃあないか」と教えてくれた。

僕はそれで合点した。

若い頃面白半分で手を出したクスリが数年たってから影響が出ることもあるという。

Kの父親も飯山温泉では名の知れたヤクザだったようで、出来損ないのKもその道に入り、入れ墨をいれ、覚醒剤にも手をだすようになった。

しがない探偵だがKには立ち直るきっかけになったようだ。

僕たちはそれからも仲良く付き合ったがヤクザは短命の者が多い。

Kも若くしてあっという間に帰らぬ人となった。

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