「ミイラ取りがミイラになる」

ミイラ取りがミイラになる。

このことわざを探偵で例えるならば、普段、浮気調査を行う探偵がプライベートで意気投合した女性と一夜を共にし、自分が浮気をしてしまう立場となり、後々浮気相手の配偶者から浮気調査を実施されてしまい浮気の証拠を撮られる状況にあてはまっているだろう。

このような状況は探偵として恥ずべき状況と言える。

せめて「自分たちが尾行されているかどうか?」くらいは判断し、「尾行をまく」もしくは「日を改めて浮気する」くらいの状況把握能力は欲しいところである。

しかし、仕事を離れたプライベートの探偵は

「ただのオッサン!」

赤提灯で一杯なんて状況も珍しくない。

飲んでしまえば注意力は散漫になり、仕事上で発揮する能力の2%くらいしか出せるかどうか?という有様が正直なところ・・・

若さが懐かしい今日この頃、ふっと懐かしい記憶が蘇る。

昔々のことであった。

若い探偵が夫のある女性とお酒の席をもうけたそうな。

若い二人は飲み比べを始め、気がつけば終電を逃した時間帯になっていた。

探偵よりも年上で美しいその女性は「もう一軒行こう!」を繰り返す悪魔のような酒豪であった。

若い探偵も酒に潰れるほど精神力が弱いタイプではなかったが、挑んではいけない相手に勝負をしかけてしまった。

午前3時を過ぎる頃には若い探偵は「魔女のご馳走」になり果ててしまった。

シメのアブサンが敗因だった・・・テキーラまではよかったのだが。

ニコラシカに始まりテキーラそしてアブサンの「禁断の三段攻撃」には手も足も出なかった。

やっとの足取りでBARを後にして、意識が飛ぶか飛ばないかのギリギリでネオン街を抜けタクシーに押し込まれ、車窓に流れる夜の町並みが男のプライドをそぎ落とすように流れていく。

隣の魔女は若い男をお持ち帰り状態ではしゃいでいる。

若い探偵の失敗

魔女

鶯谷の駅に近づく側道を通り抜けた突きあたりのホテル前でタクシーは止まり、引きずり出される哀れな探偵。

酒豪の魔女は若い男をリードする、というより引きずる?かたちでホテルの一室に収まった。

それからの記憶は全く無く、魔女にもてあそばれて朝を迎えた事実のみが残った。

酒と欲望にまみれた夜は明け、現実が時間と共にやってくる。

ラブホテル特有の乾燥した部屋の空気感に喉の渇きを感じ目が覚める。

頭痛と乾ききった体が欲する水を探して暗い室内を手探る。

魔女の寝息が可愛らしい事を除けば想定内の状況と自分に言い聞かせ平静をとりつくる。

この魔女は旦那さんに罪悪感など持ち合わせていないのだろう。どうみても慣れた手順の行動であり、魔女にとっては「予定調和」なのだと理解できた。

我に返りつつある若い探偵はとりあえず窓を探し、自分の現在位置を認識しようと努力する。

鶯谷の外れにあるラブホテルまでは理解できるが、出入口がどのように配置されているか記憶が全くなかったのだ。

当然の可能性としてホテルを出るところは用心しなければならない。魔女はこのような行動を繰り返している事は間違いないと判断できたからだった。

限られた窓から外の様子を伺ってみる。

悪い予感は的中していた。

ホテルの出入口に面した道路の突きあたりに人が立っていた。

かれこれ20分以上同じ場所で「張り込まれている」ことに間違いなく、このホテルの出入口に視線を送っている事が理解できた。

若い探偵にとって初めての経験、ミイラ取りがミイラになってしまった。

魔女はそんな状況を知ることなくベッドで生まれたままの姿にシーツを巻き付けて可愛い寝息を続けるだけだった。